自然光と1灯のLEDで、お茶のある風景を表現する

今回の撮影シーンは和の器。料理道具街で有名な浅草かっぱ橋に店舗を構え、日本の伝統工芸品を扱うショップ&ギャラリー「晴居堂(せいきょどう)」様にご協力頂き撮影。撮影した商品は横浜に工房を構えるガラス作家・草野啓利さんによる宙吹きガラスの作品。ワインレッドと白の躍動的な文様が涼やかな抹茶茶碗です。器の下に敷いたのは、能登上布・山崎麻織物工房さんの涼やかなテーブルセンター。「蝉の羽」といわれるように透け感のある能登上布を使った商品です。

撮影に使用した背景ボードはRUST background。RUSTは温かみがありながらソリッドなイメージで和洋に関わらず器の撮影に適した背景ボード。錆を意味するRUSTですが、職人の手作業で塗装した独特のテクスチャと落ち着いた色味が特徴です。

晴居堂 吹きガラス 草野啓利

Visual image|夏の日に、茶をたしなむ

お店へ行った時の印象を再現しています。店へ入ると、飴色の木製テーブルに茶碗と麻布の組み合わせ。ガラスの器と麻が涼しげな印象です。店主へお話を伺うと、ガラスで作った抹茶茶碗とのこと。プロップに添える茶道具もお借りし、夏の日に茶をたしなむシーンを設定しました。

晴居堂 吹きガラス 草野啓利

撮影メイキング

はじめに、ガラス茶碗を光にさらして観察します。ガラスに当たる光が順光、サイド光、逆光といった具合です。
光を通すことで、ガラスの立体感やキラキラが見えてくるはずです。光がおおよそ見えたところで、セッティング開始です。

今回選んだ天板は、RUSTbackground。個性的な模様がありながら、落ち着いた雰囲気のボードです。このボードを選んだのは、お店にあったよく使い込んだ飴色の木製テーブル。和テイストとの相性が良さそうと思ったのが理由です。ここからお店で見た印象を再現していきます。

ガラス器の撮影方法 ライティング

まず全体のライティングは自然光で。この日は窓からの陽射しが強く、天板のコントラスト(明暗差)が高かったので、遮光していきます。商品の左側の窓には白いスチレンボードを、奥側の窓にはデュフューザーを設置。デュフューザーがない場合は、レースのカーテンやビニール袋などで代用してみて下さい。こうすることで光が拡散し、天板のコントラストを抑えることができます。天気でいう、あかるいくもり空を作るイメージです。

晴居堂 吹きガラス 草野啓利

次にガラス茶碗に当たる光に着目し、商品を動かします。先ほど見た、ガラスの透明感やキラキラ感が出ているところがベストです。デュフューズした窓側を奥にして、商品を置きます。背景ボードは90x90cmと大きいので、好きなところに置くことができます。

カメラ位置が決まり、ガラス茶碗のそばにプロップを添えていきます。麻の上布に茶筅と茶杓、なつめの茶器セット。プロップを並べて、お点前(てまえ)のシーンを作りました。

晴居堂 吹きガラス 草野啓利

最後に、小型のストロボ「profoto C1プラス」で光を加えます。ガラス茶碗のやや奥、上側から照明を当て、ガラスの影を出していきます。このときLEDの輝度をいちばん明るくして、影の見え方を探していきます。茶碗の手前にアクセントの影を付けることで、暑い夏の陽射しを演出しています。影の濃度と長さ、位置を調整して完成です。

補足になりますが、C1プラスはストロボでもLEDでも使用できます。LEDは自然光と同じように見えるので、使いやすくお勧めです。

晴居堂 吹きガラス 草野啓利

完成ビジュアル

暑い夏の日、涼しげなガラス茶碗で茶をたしなむシーンをイメージし、撮影しました。ガラスの複雑な形状を光が透過し、敷いた能登上布にキレイな影が落ちています。柔らかい自然光をベースにLEDのライトをミックスすることで夏の陽射しを作り込んでいます。

使用ライト:自然光+ストロボ(Profoto C1プラス)1灯
使用機材:SONYα7SⅢ/FE 24-105mm F4 G OSS
撮影データ:f9 1/40 ISO1600 RAWデータで撮影後Photoshopで調整

Photograph:和田剛(Photographer)

 

INTERVIEW

※聞き手:和田 剛(和)/晴居堂 店主:瀬戸口 ゆうこ氏(ゆ)

(和)今回ご協力ありがとうございました。はじめに会社情報やお店の事を教えてください。

(ゆ)この晴居堂(せいきょうどう)というお店は、伝統工芸をメインに作家物とか日本のいいものをセレクトして扱うというコンセプトでやっています。私自身がライターなので、実際に作り手さんのところへ取材に行って、その物の裏側にある背景も含めていいなと思ったものをセレクトして置いています。日本のいいものだったりとか、日本文化とか、そういうところに触れていただきたいというところで、器とか工芸品の物販や水引だったりとか、日本文化に関わるワークショップなどをやっています。

(和)ありがとうございます。今回、吹きガラスの抹茶茶碗をお借りして、ブラウンのRUSTbackgroundという背景ボードを使って写真を撮りました。出来上がった写真を見て、この背景ボードについてのインプレッションを教えていただけると嬉しいです。

(ゆ)はい。ボードだけ見ると結構個性的で、もうちょっと目立つのかなと思ったんですけど、器だったりモノの魅力っていうのを引き出すような仕上がりになっていて、素晴らしいなというふうに思いました。

(和)ありがとうございます。確かにそうですよね。

(ゆ)あとは光の当て方でもイメージが違ってくる感じがしたので、撮り方によっていろんな表情を見せてくれるのかなというところも面白いなと思いました。

(和)ありがとうございます。お店のホームページ「職人図鑑セレクトショップ」を拝見しました。ECでの販売も行っていますが、写真はゆうこさんご自身がお撮りになるんでしょうか?

(ゆ)そうです。私が撮ってます。

(和)写真を撮る際に気をつけていることや、工夫していることはありますか?

(ゆ)なるべく立体感が出るように工夫しているのと、あとは使うシーンが想定できるような写真を撮れたらなと思ってます。ただ、ちょっと力不足でそこまで行けてないんですけど。

(和)なるほど。お店の中でこうして器やお皿などが並んでいるんですけど、やっぱりテーブルやキッチンのイメージで撮れたらといったところですかね。

(ゆ)シーンで言えば、食卓の雰囲気かなというふうに思っています。それなりに値段がするものも多いですし、お皿1枚何万円っていう商品もあるので、やっぱりある程度背景の高級感がないとチープになってしまうので。

(和)店内での撮影の時は、この白の壁とか飴色のテーブルとかいろいろありますが、よく使う背景っていうのはありますか?

(ゆ)やっぱりバックが白の場合はそこの棚で、あとはアンティークっぽい雰囲気を出したいときはテーブルを使いますね。

(和)壁、確かにいろいろありますよね。最後になりますが、撮影にまつわるエピソードで嬉しかったこととか困ったことがあったら教えて下さい。

(ゆ)私はちょっと写真のライティングが苦手で、自然光が出ているうちに撮るんですね。ゆっくり夜に撮りたいなって思うんですけど、それだと何か不自然になってしまって、納得いかないものになるのが今困ってますね。

(和)ちなみにここで商品を撮影していますが、何時ぐらいの光がベストですか?

(ゆ)朝の10時から午前中が一番いいですね。

(和)カメラはやっぱりIPHONEですか?それとも一眼レフ?

(ゆ)一応、一眼レフです。EOS kissで。

(和)なるほど。

(ゆ)使いやすいと聞きまして。

(和)ライティングということで、我々Academyといって、撮影のメイキングでライティングのTIPS記事も紹介しています。そういうのって読みたいと思いますか?

(ゆ)思います。はい。興味あります。

(和)ありがとうございます。ご協力ありがとうございました。

晴居堂 吹きガラス 草野啓利
伝統工芸のギャラリー&ショップ 晴居堂
東京都台東区松が谷2-27-3-101

日本の伝統工芸の今を伝えるウェブマガジン『職人圖鑑』。ギャラリー&ショップ晴居堂は、そのフラッグシップショップとして料理道具街で知られる東京・かっぱ橋にお店を構えています。店内には、『職人圖鑑』のライターが取材先で出会った工芸品を幅広く取り揃えております。訪れるたびに、新しい出会いがある。日本の魅力を再発見できる。晴居堂は、そんな場所でありたいと思っています。